暖かい闇

酒と食事と過去

2023年4月1日 飲食雑記 洋食屋に行っています

 近況ですが、本当に疲れているらしく、金曜日夜、深夜1時半に就寝し、途中何度か起きたもののまたすぐに眠りに落ちて、土曜日17時まで眠りこけていた。この2週間ほどは仕事に追われて十分な休みも余暇も取れていなかった。このところ仕事以外で何も達成できていない。今日も起きてご飯を食べて買い物に行って高校数学を1時間半やったら今これを書いている途中で日付を回ってしまったでごわす。せめてブログを一本書き終えて公開し、何かをやったこととしたい。

 前回煉瓦亭に行ったのが2月4日*1、そのあと2月25日、3月20日、31日と洋食屋に行った。友人と洋食屋巡りをしている。出不精なので一人だとなかなかお店を回れない。一緒に行ってくれる人がいるというのはありがたいことだ。品数も頼めるし。

 

2月25日 上野

 煉瓦亭に行ったので、それに負けない古い店をということで上野の超がつく老舗店を選択。

 頼んだのはオムライスハヤシソース、カニクリームコロッケ

 ○○○○って頼んだらこういう味が出てくるよねーっていう理想形の美味しい味が出てくる。そのため意外性はあまりない。観光ついでにいくなら裏切られることはないので安心感がある。値段はちょっと高い。注文から提供までの速度がはやい。

 個人的には一度行けばいいかな…。お昼どきピークタイムは死ぬほど並んでいるし…。このメニューが面白いですよってのがあれば教えてほしい。

 

3月20日 五反田

 こちらは創業70年らしい。

 2人でシェアしながら注文したのはコンソメスープ、カニクリームコロッケ、レバーソテー、ハヤシライス、ポークエスカロップ

 最初に出てきたのはコンソメスープ。ウズラの卵が2つ浮かんでいる見たことないビジュアルをしている。一口スープを飲むと、タイムと胡椒の効いたハーバル&スパイシーな刺激的な香りにビックリする。見た目も味も、一品目から頭の上に???マークがいくつも浮かぶ。なぜ、ウズラの卵が浮かんでいるのか? 地元の洋食屋に、赤だし(私の地元はお店で出てくる味噌汁は赤味噌がスタンダード。しかしなぜ矢場とんの味噌汁は赤だしではないのか? 謎である)の中にウズラの卵が入っているものがあるが、濃い、多少粉っぽさもある赤だしに半熟になったウズラの卵の黄身がトロッと溶けてまろやかになって美味しい。つまりこの場合、料理としての必然性があるように思うが、このコンソメスープはどうなのだろうか? 美味しいには美味しいが、なにもわからない。ウズラの卵、それも2つ。一般に卵の味は強いので、コンソメスープ、ではなく、ウズラの卵ポーチドエッグスープ、とかの商品命名のほうが実態に沿っているように思われる。しかし、老舗店でよく発生しがちに思うが、メニュー名から想像もできないものが飛び出すのもまた一興、楽しみの一つという捉え方をするようになってきた。

 次にカニクリームコロッケ。三角形の独特な形をしたクリームコロッケが2つ運ばれてきて、味がついているので何もつけずにお召し上がりください、とのこと。食べると塩気がしっかり効いている。なるほど何もつける必要がない。それに加えて玉ねぎの甘味と、マッシュルームの食感、そして……カニ…? カニ…?????? カニ、いなくないですか? 口のなかでカニを探しても見つけられない。そのかわりに肉の出汁の味がする。あのコンソメに使うベースの出汁の味だろうか? いったいどういうことなのだろうか? 疑問は尽きることがない。またしても疑問符が頭の上に浮かぶ。

 3品目はレバーソテー。玉ねぎとピーマン、ベーコンと鶏レバー、そして鶏ハツが一緒に炒められていて、茶色い(というか黒に近い)とろみのついたソースでまとめられていて、仕上げに上にクレソンが添えられている。食べてみると、これも塩気がしっかり効いていて、そしてガツンとニンニクが効いている。これはなんなんだろうか。何味なのか? なにもわからない。2人で食べながら、そもそもこれは洋食なのだろうか?という疑問が生じた。中華料理屋でレバー炒めの名でこれが出てきても、もしかしたら違和感なく食べているかもしれない。この料理のルーツはどこにあるのか、類似の料理は他店舗にはあるのか、何もわからない。沼津のあんかけスパゲティ(とは名乗っていないが)にカルーソというレバー炒めをトッピングしたメニューがある。一緒に行った友人とも過去にそれを食べており、たいへん美味しかったことから、レバー炒めに勝手に期待して頼んでみた。沼津の店のカルーソは、玉ねぎスライスとレバーをからっと炒めて水分を飛ばした炒め物が乗っていて、そういう感じのものが出てくるのかな…というぼんやりした予想持っていた。ところが予想とはまったく違う、とろみのついたソースたっぷりのものが出てきた。あるいは町の洋食屋にありがちな生姜焼きや焼肉定食のようなあまじょっぱいソースが絡んだものが出てくる可能性も考えていたがまったく違う。鶏レバーというのも意外。あれはいったいなんだったのだろう?? 頭上の疑問符は増える。

 4品目はハヤシライス。正直、ここでハヤシライスではなくテールシチューやタンシチューを選ぶべきだったと後悔してはいるが、そこはまた行けばいい。ここのハヤシライスは、前回訪れた上野の店のようなみんながイメージする最大公約数的なハヤシソースでご飯を食べる料理ではなかった。玉ねぎと肉を炒めたものに肉の味の汁が絡んでいる料理、と表現した方が正確だろう。料理の要素の組み立てから判断すると、いっしょに行った友人の素晴らしい例えを引くのであれば「牛丼」に近い何かである。ソースポットにこぼれんばかりに盛られた玉ねぎ肉炒め+肉汁(ハヤシソース)のビジュアルもインパクト大で、お肉たっぷりで、満足度の高い料理だった。

 5品目はエスカロップエスカロップという、おそらく日本各地に別々に伝播し点在する謎の洋食メニュー。根室のそれは全国的に有名だが、福井の敦賀ヨーロッパ軒のスカロップ(もったりしたオレンジがかった色のシナモン風味のソースがかかっている)、名古屋市車道の某店のエスカロップ(ポークカツレツにデミソースが上からベタっと前面に掛かっている)などを私は観測している。他にも全国あちこちにいろんなエスカロップがあるのだろう。ここのエスカロップはチーズが入っている豚ロースカツで、横に一筋、黒いソースがかかっている。このソースはビーフシチューに共通のデミグラスソースだろう。チーズがもっちりしていて、ソースはコク深くてアクセントとしてしっかり効いていて美味しかった。しかし、エスカロップチーズ入りは初めて経験した。

 全体としてたいへん美味しかったが、店を出て同行人と同意見だったのが、「わからない」ということだった。なぜどうしてこうなっているのか、最初から最後までわからない。よく知っているはずのメニューがすべて未知な何かとして出てくる。似ているけどなにもかも違うパラレルワールドに迷いこんでしまったのだろうか。オフィス街の雑踏の片隅にひっそりと我々に馴染みがあるそれとは違う異世界がある。我々が生まれる前に忘却されたものが残っているのか、その店の独自発展の結果なのか、我々の無知ゆえであるのか、ともかくも、私の身近には私の知らない世界が大きな口を開けているのだ。私は覗き込んでしまった。もう逃げることはできない。

 

3月31日 赤坂見附

 31日は友人の職場が近い赤坂に良さそうな店があったので行ってみることに。1970年創業とのこと。頼んだのは、おつまみセット、ポークソテーナポリタン、オムライスデミグラスソース。

 おつまみセットは、燻製半熟茹で卵、ピクルス、エビフライのセット。卵はほどよく冷燻されていて、エビフライの衣が軽くて美味しかった。

 次に出てきたのがポークソテーポークソテーは鉄板に乗っていて、ガロニは人参、スナップエンドウ、ポテトフライ。茶色いソースがかかっている。同行人と2人して、ははーん、こういうパターンはもう美味しい、と確信。洋食屋で食べ物に茶色いソースがかかっていればだいたい当たりなのだ。一口食べてみると、マスタードだ。マスタードの酸味と刺激がファーストインプレッションとしてやってくる。食べ進めると、どうやらソースにはピクルスも入っている。友人が何のソースだろう?と問うたので、私は「うまあじ(旨味)ソースでしょ」とてきとうに答えたが、突如として私の頭のなかでピースが嚙み合った。あ、これ、シャリュキュティエールソースじゃん、と。炒めた玉ねぎに白ワインを加え煮詰め、仕上げにピクルスとディジョンマスタードを合わせたフランス料理の古典的ソースだが、ここまで色が濃いシャリュキュティエールは見たことがなかったから最初全然気づけなかった。おそらく、オムライスに使うデミグラスソースを少し加えているから茶色が濃いのだろう。現代のレシピでもフォンドボーを加えて旨味を増強することがあるので全然不思議なことではない。それどころかむしろ、指向としては正統な古典フランス料理への回帰といった趣すら感じる。ただの「うまあじ」ソースなどではない、洋食とフランス料理のたしかな知識と技術に立脚したソースだったのだ。

 3品目はナポリタン。トマトソースがたぶん入っている。ベーコンやハムやソーセージではなく、豚肉が入っていた。ナポリタンの肉の燻製のにおいはあまり好ましくないと思っていたので、個人的には当たり。ほっとする味だった。

 4品目はオムライスデミグラスソース。店の名前を冠した〇〇風オムライス、とのことで、意外や意外、ケチャップライスではない。硬めに炊き上げた粒立ちのよいピラフの上に、上面オープンの半熟オムレツが乗っており、さらにそのオムレツにピーマンや豚肉がビルトイン。その上からデミグラスソースがかかっている。一口食べるや夢中で食べきってしまう美味しさだった。同行人と思ったのが、これはオムライスなのだろうか? ということだった。何か似て非なる、でもやたらと美味しい何か。いや、もちろんオムライスと呼んでなんら差支えのない料理だと思うが、既知のものと違う。帰宅後、自宅で湯舟に浸かりながらそぞろにその日のことなどを思い出していたら、ふと、過去に同じような料理を自分で作ったことを思い出した。同じような、と書くと語弊があるかもしれない。美味しさを構成する原理部分は同じ、くらいの話なのだが、あれは、「愚者の祭典」じゃん、と閃いた。どうやったって注釈が必要だと思うので注釈すると、小林銅蟲の傑作料理漫画『めしにしましょう』に登場する料理で、白飯の上に、牛筋煮込みとふわとろ卵と豚の竜田揚げが乗ったなにかである(コミックスが今手元にないので記憶ベースだから違うところあるかもしれない)。私は昔新潟で働いていた友人の食客をやっていたことがあるのだが、その際振舞った経験があり、食べ始めると気づいたら満腹になっていて皿からメシが消えている。粒立ちよく硬めに炊いた米と、ふわとろ卵と、肉汁が口のなかで渾然一体となって化学反応が起こり食欲に着火する。あの店のオムライスもそれと同じだ。ケチャップライスであってはいけない。味が強すぎる。それに一粒一粒がきちんとそれぞれ解けてくれなくてはいけない。米はあくまでも米。そこに卵、肉味ソースのコンビネーションで料理が完成する。ひるがえって考えると、通常のオムライスは卵ではなく包まれているケチャップライスのほうが料理としての本体ということなのだろう。ふつうのオムライスにおいて卵やソースは増強剤にすぎないのかもしれない。おそらく多くの人がオムライスにぼんやり憧れを抱いているであろうふわとろ卵、デミグラスソース…なんて飾りです、偉い人にはそれがわからんのかもしれない。とまで考えた。話を戻すと、通常のオムライスセオリーからはおそらく違う原理で「美味しい」を生み出しているので、オムライスと呼んで差し支えないが、それともちょっと違う美味しい料理だった。ところで、その店はオムライスにソーセージやハンバーグを追加トッピングできるらしいが、「愚者の祭典」に準えるなら豚肉の竜田揚げに相当する位置づけにあり、米・卵・ソースの三位一体に敢えて別の咀嚼物を加えリズムを与えていると解するべきであろう。トッピング、むちゃくちゃいいじゃん。やればよかった。メニューを眺めた当初は、オムライスにトッピングなんて無粋では?と思っていたけど、なるほど料理の設計に適ったオプションだったのだと思い直し、当初の考えを改め反省した。

 燻製卵はおそらく自家製で、料理人の方は料理が好きでいろいろ試したくなる小粋な人なのだろうと推察される。一方で現代的な発想からはあまり生まれそうにないオムライスや、古典的なフランス料理の応用らしいソースがあったりと、どこからどこまでが創業時からなのか、途中で導入されたものなのか、古典と新鮮さの入り混じりの妙が謎を深めていく。先に記した五反田の店で謎に囚われて以来それを引き摺ってここでも深く考え込んでしまっていたが、風呂に入ってそぞろに思案しているうちに、ある店の料理すべてを統合する理屈をどうこうして考えだそうだなんておこがましいと思わんかね、と気付いた。長く続いている店にさまざまな地層が重なっているのは当然のことであり、それぞれについては考察の余地はあるが、それらすべてを一つの筋書きで理解しようすることなど土台無理な話である。ピラフの上に卵が乗ってピーマンや豚肉がちりばめられてソースがかかっている。あのオムライスに、必然性と偶有性の地層の重なり合いの表出をそのまま見い出せばよいのだ。今度トッピングを試すためにもう一度行きたい。

 

 洋食屋にすっかり魅せられてしまった。行く店はどの店も強烈な個性がある。同じ商品名でも振れ幅が予想を超えて大きい。しかもそうとは主張しないから、店に行って目の前に出てきて食べないとわからない。

 だが、メニュー名に盛り込み過ぎるとたぶん3軒目赤坂見附はこんなふうになってしまうだろう。「豚肉ソテー肉屋風旨味(うまあじ)ソース、自家製トマトソース入りほっこりナポリタン、手間ひまかけた特製ソースがけ元祖・玉子ご飯、大粒カキフライピクルスたっぷりタルタルソース添え*2」クソダサである*3。極端な例を出しておふざけをするのはさておき、仮に新規店で同じような商品を出すとしたらメニューにはなんと記載し、お客さんにはどのように伝えるだろう……と考えてしまう。

 店をホッピングしていくことへの躊躇がないではないものの、今は同行者がいることに感謝しつつ、しばらく洋食屋巡りを続けたいと思う。同行二人(弘法大師ではなく実際の友人だが)、洋食屋お遍路の旅は続く。

 以上です。

*1:いつの間にか岸田と尹が行っていた

*2:そういえばカキフライも頼んでたの忘れてた

*3:クソダサに書いてるんだからそりゃそうか。