暖かい闇

酒と食事と過去

飲食雑記:2023年10月7日の食事会について

 2023年10月7日、幣宅に客人を招いて。結論から言うと、今回はかなり失敗をかました。会費を高めに設定しておきながら、予定していた料理をすべて出すことができなかったし、お酒も残ってしまった。とはいえ食材は買い込んじゃっているからお金はもらわざるをえない。ううう、申し訳ない…。もう2週間経ったけどまだむちゃくちゃ反省している。

 会費が高すぎると買い物をしてても自分の肌感覚で金額のアタリがつかないから迷子になる。自分が何を作りたいのか、何が作れるのかだんだんわからなくなってくる。制約は適度にあったほうがいい。以下作ったもの。

 

・牛肉とキノコの春巻き

 牛スネ肉と牛ホホ肉を庖丁で細かく賽の目に切って叩いてミンチを作って、つなぎの牛ひき肉、炒めたマッシュルームと椎茸、玉ねぎ、擦り下ろしたグラナパダーノ、細かく刻んだセージ、イタリアンパセリローズマリー、塩胡椒と練って、春巻きで包む。前日に作って冷凍しておき、当日揚げる。ま、飛騨牛なんでね、美味いよ。ほぼ肉で、粗挽き肉たっぷりだから肉肉しくて美味しい。

 

・クラッカー、クリームチーズイクラ醬油漬けと茄子のキャビア

 イクラ醤油漬けは普通の作り方で。筋子を60℃程度の塩水につけて卵をばらして、お湯を入れ替えながら掃除して、煮切って冷やした醤油味醂酒の漬け地に漬ける。クラッカーにクリームチーズを塗ってイクラを乗せることを想定していたから、そこからさらにルビーポートを隠し味に少量入れる。醤油というのはとても強い調味料なので、ポートワインを少量入れたくらいでは食べてくれる人は気づかないだろうと思うが、おまじないです。

 茄子は洗って爪楊枝で3箇所くらい穴を空けてオーブントースターで1時間程度じっくり焼く。皮は真っ黒に、茄子からはじくじく蜜が滲んできてその蜜が黒く焦げるくらいまで。焼き芋のようなほっくりした甘い香りが漂ってくるまでじっくりじっくり待つ。オーブントースターから取り出してスプーンで半割にして、皮からこそぐように身を取って、包丁でたたく。ミルクパンに移して水分が飛ぶまで火にかけて練って、いい具合の固さになったら塩と新鮮なエクストラバージンオリーブオイルで調味。そしてイクラとの連続性を持たせるためにルビーポートを少量香りと甘味付けに加える。これで完成。

 イクラの醤油漬けと茄子のキャビアを両方同時に出したが、イクラの旨味が強すぎるので茄子の美味しさが霞んでしまったように思う。少し失敗した。茄子のキャビアはいろいろな作り方があって、ニンニクを入れたり、アンチョビで旨味を足したり、練り胡麻を入れてコクを加えたり等々あるが、秋ナスの美味しさを味わってほしいから茄子だけにしてしまった。イクラ&醤油&クリームチーズという強いメンバーの組み合わせに拮抗させるのに、茄子だけでは弱かった。単品では茄子だけで作るのが好きなんだけど、アンチョビを入れてもっと強い味にすればよかったと思う。

 

・鮃昆布締めの摺り胡麻三つ葉和え

 2日間昆布締めにした鮃と、摺り胡麻と、三つ葉は茎を茹でて、葉はなまのままざく切りにした三つ葉を和える。少量醤油。スダチ果汁を絞って。しっかり昆布で締まった鮃はねっとりとして、胡麻三つ葉とよく絡む。

 

・カツオ漬けの黄身おろし乗せ

 スーパーに行くと戻り鰹の皮際に脂がしっかり乗っていてあまりに美味しそうだったので食べたくなって作った。ところで、家で生魚を出すときはなるべく手を加えるようにしている。私みたいなスーパーで魚を買う一般人は手に入る魚のものも鮮度も手当にもあまり期待できないし、庖丁もいくら研いだところでプロの庖丁と庖丁の技術には勝てないから諦めている。なので、漬けにするなり、湯霜、焼霜、酢締め、昆布締めなどなど…。

 漬け地はたまり醤油と味醂と酒にしたような気がする。これに青唐辛子を刻んだものを加え、厚めに切った鰹を20分くらい漬けた。大根おろしに辛味大根を使ったので青唐辛子は余計だったかもしれない。ただ、鰹の生臭さをマスキングするために青い香りも欲しかったのでここは青唐辛子ではなく獅子唐でもよかったかもしれない。それか他のハーブでいいのがあるかもしれない。辛味大根には黄身を混ぜて黄身おろしにした。戻り鰹の脂が多いので、大根でさっぱりさせるのにも間をつなぐ味が必要だと思い黄身おろしにした。肌寒くなる日もちらほら出始めていたので、たださっぱり食べたい、というのでは季節に合わないだろうと考えた次第。鰹を皿に並べ、黄身おろしをこんもり乗せて、そこに2,3cm幅に切った小葱を散らして完成。

 

・甘海老昆布締め甘海老味噌とも醤油和え

 甘エビの殻を剥くときに頭から味噌を掻き出してとっておき、和辛子と醤油とを合わせ、とも醤油を作っておく。甘海老の身は浅く昆布締めにする。甘海老の身を昆布締めにするのは、昆布の味を移すというより、軽く脱水するため。磯臭い甘海老の味噌をダルダルの甘海老の身と和えるとだらしのない味になることが予想されたので、昆布で軽く脱水することで甘海老の食感を残して、存在感を高めたかった。仕上にスダチの皮を削りかけて完成。

 

・牛アキレス腱、牛カッパ肉燻製、ミノ天ぷら

 牛アキレス腱は牛タン、牛スネ肉、牛ホホ肉、昆布、干し椎茸と一緒に圧力鍋で炊く。とろとろになったアキレス腱を取り出し、熱いうちに軽く塩を振って下味をつけておく。これを冷蔵庫で冷やして、提供前に一口大に切る。熱いうちはとろとろだったアキレス腱がぶりんぶりんの食感になり、咀嚼すれば牛の豊かな香りと旨味が口に広がる。作ってみるとむっちゃ美味い冷菜になったからまた作る。

 牛カッパ肉燻製は既製品を買ってスライスして出しただけ。とても好評だった。いつも実家に帰ったら行く肉屋のこれがいっちゃん美味い。

 ミノは天婦羅に。これも大好評。ミノは国産品を買うとハチャメチャに高いので、こんどミノを料理に使うときはさすがに天婦羅にはしないかも。

 

・ちちこの佃煮

 これは地元に帰ったときに買って作って持ってきたもの。ちちことはヨシノボリの仲間の小魚の総称みたいだが、アジメドジョウも入っていたので川で獲れる小魚の総称のようだ。これを甘辛く醤油と砂糖と味醂で炊いて佃煮風にした。小さいけれどしっかり川魚の香りと味わいがあってたいへん美味しい。下流域で獲れるゴリの佃煮ともまた違った味わいだ。お酒のアテにたいへん美味しい。実家では唐揚げも作ったが、小さいながらも川魚の風味があってたいへんに美味しいものだ。

 

・茹で牛タンの白味噌仕立て椀

 牛アキレス腱、牛タン、牛スネ肉、牛ホホ肉、昆布、干し椎茸を炊いた出汁を使ってお椀を。牛タンはさすがに国産ではないです…。蕪、人参、干し椎茸、牛タン、アキレス腱を盛って、西京味噌で調味した汁を注いで、柚子の皮をあしらって完成。美味しかった。けど、横着して蕪と人参を飲む汁で火を入れたのは間違いだった。特に蕪は非常に風味の強い野菜だ。汁全体を蕪の風味が支配してしまう。蕪と人参は別に取り置いた出汁(牛の出汁がもったいないなら昆布だけでもよかったかもしれない。)で火を入れて、椀のなかで一つに合わせるべきだった。せっかく牛の旨味をきれいに抽出できたのに、出汁の美味しさの焦点が蕪の風味でぼやけてしまった。そうなることはわかってはいたが、やってみると想定以上に大きな差が出た。蕪を見くびってはいけない。そしてやはり横着はいけない。アキレス腱はさっきの冷菜のアキレス腱とまったく違うとろっとろの食感になり、楽しんでもらえたように思う。

 

・牛センマイのフェ

 牛センマイをさっと湯に通して氷水に落とし、よく水分をふきとっておいておく。コチュジャンお酢スダチ果汁、生姜、ニンニク少量、摺り胡麻を混ぜてチョジャンを作っておく。キュウリ、春菊、小葱と牛センマイを少量のゴマ油で和えて、さらにチョジャンで和えて、仕上げにスダチ果汁をさらに上から絞って完成。翌日別の友人に鯵フェも作ったんだけど、客人がゆっくり食べることを想定して野菜から水分が出てべちょべちょになるのを防ぐためにチョジャンと和える前にゴマ油で具材を和えるひと手間を入れたんだが、まあこれはこれで美味しい、べちょっとしない、チョジャンの味が薄まらないからはっきりわかる、というメリットはあるものの、やはり、具材に味が乗り切らないと感じる。お客さんに出すにはいい方法だと思うが、美味しさで言うと一段落ちる調理法だと思う。そのままチョジャンで直接和えたほうが美味いよ。…という話を後日母親にしたらその通りとのこと。そもそもゴマ油が要らないでしょ、よけいな風味でしょ、とのことで、おっしゃる通りでございます。母曰く、(チョジャンで野菜と和えるタイプの)フェは作ったらすぐ食べてもらうことが前提の料理であるし、これは自分の好みであると断ったうえで、野菜から水分が出た汁もそれはそれで美味しいでしょとのこと。改めて自分で誰かに作ろうとなって、自分で試してみてはじめてわかる料理の理合いをここで発見した。母親の作り方には深いの理合いの裏付けがあった。また、ゴマ油で和えると春菊の鮮やかな香りもマスキングされてしまってよくない。

 考えてみればこの理合いはサラダでも共通なんだよな。最初にオイルで野菜をコーティングしてしまうと野菜から水分が出てべちょべちょになるのは防げるけど、やっぱり野菜に味が乗りきらない。解決策はいろいろあるし、状況によって臨機応変に対応すべきだけど、突き詰めれば野菜に先に塩を乗っけるのが正道であるように思う。

 どうでもいいけど、調理技術は科学の言葉で語るより、武道の言葉で語る方がしっくりくるパターンが多くないですか? 科学的裏付けを与えられるか微妙なことについてさも科学的であるふうな口ぶりで語っている人多くないですか(敵を増やすな)。科学的に語れないでっかいグレーゾーンがあるはずで、それを語るに適した言葉があるはずで、「理合い」は非常に便利な言葉だと思う。内部的な身体感覚を他者の身体と共有するための言葉なら、料理と共通に使えたとしてもなんら不思議ではないように思う。

 

・豚スペアリブの豆鼓蒸し

 叩いた豆鼓と刻んだ柚子の皮を紹興酒に浸して電子レンジでチンして柔らかくしておく。それに醤油、味醂を加えて調味液を作る。調味液を、洗って吸水させたもち米を砕いたもの、豚スペアリブを絡めて蒸す。普通にうまい。これはまた作ろうかな。

 

穴子のマトロート

 マトロート作ってみた。マトロートはフランスの古典料理だが、これを穴子で作ってみてもしっかりクラシックな味わいに仕上がって満足。赤ワインとポートワインを半量以下に煮詰め、鰻の切れ端を香ばしく焼いて加える。ミルポワにはエシャロットと玉ねぎを炒めて加え、タイムとローズマリーで香りづけして20分ほど煮、濾す。これがソースのベース。客人が来る前にこれを用意しておく。客人が来たら穴子に軽く小麦粉をはたいてバターで軽くソテーし先ほどのソースのベースでほろりとするまで煮込む。あまり大きい穴子ではなかったからたぶん20分強くらいかな。穴子を皿に盛ってソースをバターモンテし、素揚げしたサツマイモを添えて完成。しっかり味の強い赤ワインのソース、そしてバターもしっかり加えていたが、穴子独特の泥臭い風味は減じることなくよくソースとマッチしていてたいへん美味しかった。これもまた作りたい。

 

・牛出汁牛肉味噌担々麺

 カシューナッツと煎り胡麻をさらにフライパンで乾煎りして、ミンサーで粉砕してゴマペースト、ゴマ油、ラー油、醤油、味醂と混ぜてペースト作っておく。自分で叩いた超粗挽きミンチ(春巻きの準備で作ったミンチの半分はこちらに使用)を甜麵醬と醤油で味付けして肉味噌も作っておく。ザーサイと干し椎茸を刻んでゴマ油で炒めたものも作っておく。器にゴマペースト、それを牛出汁で溶いて、マルタイ棒ラーメンの麺を入れ、肉味噌、ザーサイ干し椎茸炒めを乗せ、白髪ねぎ、小口切りの小葱をちらし、ラー油を回しかけて完成。これ、ハチャメチャに美味かった。そして、それでも銀座アスターの担々麵のほうが美味いと思うので、担々麺を食いたければ銀座アスターに行け。

 

 以上です。合鴨と九条葱と松茸のすき焼き風も出すつもりだったけど出せなかった…。提供スピードと量のコントロールをもっと綿密にしなければ。すみません。すみません。