暖かい闇

酒と食事と過去

2018年12月の食事雑記

前回に引き続き12月です。以下ラインナップです。

①なれ寿司のリゾット@中目黒
②香箱蟹の味噌汁@後輩宅
③柿のサイドカー@近所のバー
アブラナ科の野菜@後輩宅
⑤とんかつ@高田馬場


①12月1日、なれ寿司のリゾット@中目黒
某イベントにて某店で。立食形式の食事で最後の品がなれ寿司のリゾットだった。なれ寿司の発酵によって生まれる乳酸の酸味が突出していたが、旨味もじゅうぶんにあり美味しい。とはいえ、リゾットとしてイメージするものと比べるとかなり酸っぱくて、苦手な人は苦手だろうなと思う。
そこでチラッと目についたのが富山の羽根屋煌火。年中仕込みを行う四季醸造の蔵で、通年クオリティの高い生酒が飲める。なれ寿司と合わせてみるとピッタリ合致した。狙い通り、上質な生酒の丸い甘みがリゾットの酸と釣り合ってマッチングする。試しに隣にいた大学生に組み合わせで食べさせてみると、美味しい美味しいと言っておかわりしていた。
厨房のスタッフを捕まえて聞いてみると、普段の営業時にもコースに出る料理だそうで、その時はもっと甘い日本酒と合わせるんだそう。なるほど納得。そういう意図なのね。味の手際が上手い。
ってペアリング前提やん、と思いつつ、今度は通常営業の夜に来てお酒と合わせながらゆっくり食事したいと思った。

②12月7日、香箱蟹の味噌汁@後輩宅
今年で3年目か4年目かになる恒例行事。後輩のお父様が石川から香箱蟹を東京に送ってくださる。そして私達はありがたくいただく。
香箱蟹というのはズワイガニの雌のことで、雄と比べるとずいぶん小ぶりだが、卵巣、いわゆる内子の美味さはバツグンだ。こいつをちまちま食べながら酒をちびちびやるってぇと、いつまででも酒が飲めるって寸法になってる。季節がら寒いし熱々につけた燗がいい。空いた甲羅に熱燗を流し込んで飲んだりしちゃってさ。いわゆる甲羅酒というやつ。
というのが毎年楽しみなのだ。
もうじゅうぶんに酒を楽しんだという頃合いで、散々に食べた蟹の殻を無造作に鍋に突っ込んで出汁をとる。火を止めて白味噌を溶き、味噌汁とする。殻はザルにあげちゃって取り除くから、身も何も入っていないただの汁だが、これが美味い。酔った身体に染みる。殻だけになってもなお我々の幸福に貢献してくれる香箱蟹が実に愛おしい。そして満足を得て帰路に着く。来年もやりたい。
ついでに合わせるお酒のことについても追記しておく。
例年なら長野の北信流を用意するところなのだが、今年は売っている酒屋に行く時間の余裕がなく手に入れられなかった。たまたま本郷に行く用事があってふらっと立ち寄った酒屋で天狗舞手取川(どちらも石川のお酒だ)を見つけたので購入した。どちらも美味かったが、結論から言うと蟹との相性は北信流のほうが上に思える。
なぜなのか所見を述べる。
北信流は熱燗にして燗栄えする酒で、まるで別の酒かっていうほど様変わりして美味い。しかし、温度が常温に戻っていっても味がダレない酒でもあり、こういうところも家飲みに重宝する。派手さはないけど確かな基礎というか芯があるお酒だ。ここの仕込み水は小布施の硬水を使っていて、ミネラル分が多い。製造過程で水を大量に使う日本酒において、最終的にミネラル成分を決定するのは仕込み水だ(正確には留保が必要だ。ワインの葡萄のように、大地のミネラルを吸った米が影響を与えることも考えられるから。ただしそれが日本酒にできるのか。知ってる人教えて欲しい。)。これが蟹との相性を作っているのではないかという仮説を立てている。海のミネラルをたっぷり含んだ牡蠣と同じくミネラルを強く感じるシャルドネを合わせたりするのと同じ理屈で、海水でしょっぱい蟹と北信流が合うのではないか?と現時点では考えている。ただし、硬水だから良いとも思っていない。硬度の高い風の森が蟹に合うとも思えないから。

③12月14日、柿のサイドカー@近所のバー
近所のバーで、柿とブランデーを合わせたサイドカーをいただいた。柿とブランデーが意外にも合う。ちょっとよく理解できなかったんだけど、不思議顔してる私にマスターが「干し柿をイメージしてください。フレッシュな柿に、ブランデーの熟成香が加わることで干し柿になるんです。」と声をかけてくれて疑問が氷解した。
そもそも、干し柿とブランデーは合う。干し柿を細かく刻んでバターと練るように和えたもの(試してみてほしい)はブランデーの格好のアテになる。干し柿とブランデーのメイラード香(塾成香)がマッチするためだろう。これは相乗効果でお互いに高め合う美味しさだ。
いっぽう、柿のサイドカーは足りないものを補って完成する味だ。フレッシュな柿に、熟成香をブランデーが補って、干し柿のような深みある味わいを作り出す。
干し柿」という補助線を一本引くだけで、飲み食いしているものの印象がガラッと変わる。言葉によって食体験が変わるってのを久しぶりに経験した。

④12月15日、アブラナ科の野菜@後輩宅
蟹とは別の後輩宅にて。料理をした。
蕪は鴨といっしょにじっくりフライパンで焦げ目をつけ、スティックカリフラワー(カリフローレ)もじっくり焦げ目がつくまでフライパンで焼く。アブラナ科の野菜を焦げ目がつくまで焼いたのが好きで、根も葉も茎もよい。独特の芳ばしい香りがたまらない。
たぶんこの嗜好はお好み焼きに規定されている。母親の出身が大阪のため、小さい頃から食べているお好み焼きの、キャベツの焦げる匂い=美味しいもの、と刷り込まれているのだと思う。

⑤12月19日、とんかつ@高田馬場
すっかりとんかつ激戦区となった高田馬場だが、そのなかでも古参のあの店に行ってきた。
やっぱりここは衣が美味しい。オーブントースターで焼いた食パンのような香ばしい香りに、ミルクの甘い風味がある。爽やかな朝の、トーストが焼けるまでの豊かな時間を思い出す。
この風味を活かすために、ソースではなく塩がいい。しかも少量。パン粉がいわば調味料になってくれている稀有なとんかつだ。ある種、とんかつという食べ物が辿り着けるひとつの完成形のようにも思える。豚肉の調理法が様々ある中で、なぜとんかつなのか?”パン粉”につけて揚げることの必然性が、ここのとんかつには表現されている。
美味しゅうございました。

以上、12月の贅沢でした。