暖かい闇

酒と食事と過去

2018年11月の食事雑記

11月印象に残った料理を記録に残しておく。
たぶん次回のエントリーは12月分。

①11月5日、野菜のスープ@渋谷
渋谷で現代インド料理のコースを食べた。一番記憶に残ったのはレンズ豆とセロリのスープ。レンズ豆とセロリをとろとろに煮込み、素朴ながらもセロリを加えたことで華やかな趣きがあった。同系列店のミールスについている、サンバルを思わせる味わいがベースにあり、どこか西洋のミネストローネも感じる不思議なスープ。
これでベジ料理っていうのだから驚かされる。先週イラン料理店で羊とセロリの煮込みを食べてセロリの風味からこのスープを思い出したけど、羊の旨味が溶け出したスープにぜんぜん負けないんだもん。
というかこの店には前回も同じように驚かされた。夏のコースではタマリンドで酸味をつけ、青唐辛子の抜けた辛さが特徴的な、ラッサム風ガスパチョがスープとして供されたが、これも美味しかった(こっちはトマトと玉ねぎとその他旨味の強い野菜を使ってるから旨味の点で劣ることはないのだが…だが野菜だ!)。
美味い!野菜だけなのに!
野菜好きだし美味しいと思うけど、野菜だけ煮たり粉砕したりして、どうして美味しいスープができるのか、まだ理解が追いついていない。自分でも作ってみて、調理のどのタイミングでスープとしての美味しさが立ち上がってくるか確認しないとついぞ納得できない気がする。今後の課題だ。
スープについては自分、異様な執着があるのでそれについてもそのうち書きたい。

②11月11日、パフェ@神楽坂
お気にのアシェットデセールの店が閉店してから通うようになった近くの店で、和栗と黒烏龍茶のパフェを食べた。黒烏龍茶ジュレアマレットのアイスと和栗ペーストとサクサクのパイが口の中で混ざり合って美味い。混ざり合って、と書いたが、パフェは重なった層を崩しながら食べ進めるので、前述の要素のどこにアクセントが置かれるかは一口ごとに違う。要素はいっしょでも万華鏡のごとく構成が変わっていくのがパフェのいいところ。
和栗が強いと和菓子のようで、アマレットと烏龍茶が合わさると杏仁豆腐を想起して中華デザートのようになり、和栗と烏龍茶が合わさると烏龍茶の渋みと苦味で渋皮ごと煮たマロングラッセのような味わいに。食後も烏龍茶の風味が長く余韻として残り、店を出たあとも幸福感が続く。
傑作だったように思う。

③11月17日、猪汁@都内某所
学生のころからお世話になっているフレンチに行ったら、猪が入ったからって、猪料理各種に猪汁をご馳走になった。猪汁は滋味深く、身体の隅々まで染み渡る美味しさだった。今年もなんとか、野生の鹿と猪と茸にありつけてよかった。ほんとによかった。

④11月18日、出汁割燗の日本酒@青山
某日本酒イベントにて。日本酒と出汁の割り燗酒と料理のペアリング。鶏の出汁、鯖の出汁、シロップでそれぞれ日本酒を割る。そして料理と合わせる。目から鱗がぼろぼろ落ちる。情報量が多すぎてここには書ききれない…。書くとまるきりイベントレポートになってしまうから機会があれば書こうと思う。樽酒を魚介の和出汁で割ると美味いらしいということは納得した。自分でもやってみたい。

⑤11月29日、寿司@九段下
ハタ、シマアジ、海老、赤貝、中トロ、小肌、大トロ、雲丹、穴子鉄火巻という構成。出掛けの用事で昼休みに立ち寄った。よく考えたら大衆寿司じゃない格式ある江戸前寿司を、”自分のお金で”食べたのは人生初だった。一貫一貫とっても、その構成とっても老舗の凄みを感じた。寿司屋の一歩目がここでよかったように思える。

・ハタ
淡白な味わいの中に骨太な旨味があり、噛むほどに美味しい。最初の一貫にふさわしく、抑制的でありながら二貫目以降への期待をふくらませる。

シマアジ
打って変わって今度は脂のこってりのったシマアジ。いきなり緩急をつけてくる。さすが養殖ものと違って脂にいやらしさがなく、飲み込むとすっと脂は切れ、どこか清々しさすら感じさせる食後感。

・海老
頭ぎりぎりまで剥いてあって、頭のほうは味噌を思わせるこっくりした味わいで、背から尻尾にかけては絶妙な火入れでぷりぷりで甘い。海老って、そう、甘いんだよな…ってことを思い出させてくれる一貫。

・赤貝
つやつやで肉厚で、ぷっくりしたフォルムに数本の切り込みが通り、なんともエロティックで美しい。味は、純粋で真っ直ぐなコハク酸だった。咀嚼するたびに貝の弾力が弾け、透明かつ力強いコハク酸の旨味が舌上に展開する。アンモニア臭さは一切無かった。

・中トロ
しょうじき、ここで中トロかよぉと思ってしまった。シマアジの脂がきつかったものだから、マグロを出すなら赤身が欲しいと思った。だが食べ終わってみると、料理として最も完成度が高かったのはこの中トロだったように思われる。
脂の美味しさじゃあたしゃ満足しないよ?赤身の旨さを頂戴よ、と思いながら口に運ぶと驚いた。
まず赤身の旨さがグググググゥーーっと伸びてきてじゅうぶんに自己を主張し始めたからだ。そのあと間をおいて脂の旨味がじわじわ追いついてきた。
なぜこのような不可思議な現象が起きたのか?脂と旨味なら前者が先に感じられるはずだ。
書き忘れてたけど、ここの寿司屋のシャリは特殊、というか古風な江戸前のそれで、赤酢と塩のみで仕上げてあり、甘みが少ない。ところで、赤身の旨味とはその鉄分を含んだ爽やかな酸味にあるが、シャリの甘みのパラメータが著しく低く赤酢の酸が立つことで、奇跡的に(いや、たぶん、ぜったい狙ってやってると思うが)本来別種の酸が互いに手を取り合い、脂の主張を押しのけて伸び伸びとした酸の美味みを表現したのだ。
脂とバランスをとるには、酸で切るか、甘味で膨らませるかの方法があり、これは前者だねって言うと説明としては不十分だ。甘みがスコーンと落ちることで、脂があると顔を出しづらい酸が、突出して抜ける構造が本質だろう。
寿司、こういうことができるのかと心底驚いた。

・小肌
これも好きな寿司ネタ。こっちは中トロとは対象的に、塩と酢でかなりしっかり締めてある。脂も甘みもどこへやら。削ぎ落としきった燻し銀の味わい。これがうちの江戸前の技ですよというプライドを感じた。これは、かなり、カッコイイ。

・大トロ
脂がすごい。美味しかった。

・雲丹
エグミ全くなし。美味しかった。

穴子
ふわっふわでとろっとろ。なにより香りがいい。こんなに強い香りを感じる穴子ははじめてで感動した。穴子特有の土っぽい香りが口いっぱいに拡がって、長く、長く余韻を残す。終盤に相応しい、素晴らしい一貫。

鉄火巻
美味しかった。

以上、11月の贅沢でした。